2020年1月27日 (月)

20005.教場

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『教場』 長岡弘樹


警察学校内では盗難が多いと聞いたことがあります。まさかとは思うけど、現役の警察官が笑いながらそう言っていました。
『教場』は、警察学校で起こる事件が描かれた短編連作です。
盗難どころではない様々な事件が起こります。校内でのいじめはあって当たり前のようだし。警察官も元は普通の人だから、それが40人も集まれば嫌な奴とか、信じられない奴とかいると思います。でも、このクラス問題多すぎ。小説ですから。これくらい事件が起きないと短編連作が成り立たない。全国の警察学校で起きた事件がこのクラスに凝縮されているって感じですか。
警察学校では、警官の職務について必要なことを学ぶだけでなく、不適格者を篩にかける役割を果たしています。この小説の中では、問題を起こした不適格者はすべて退校しています。

警察学校の生徒は毎日日記を書き提出しているそうです。これがとても厳しくて、事実しか書いてはいけない。誤認した記述があったら一晩中寮の廊下で正座。文章の中に実際にはなかったこと、つまり創作した内容を混ぜた場合には退校処分だそうです。
書類は正確無比が第一。事実どおりの文章を書けない人間は、警察には必要ないとの理屈です。社会の秩序を守ることを使命とする警察官には絶対に必要なことですね。
この連作の最後に、これは重要な要素となります。

「規律を守る」ことは、「秩序を守る」側の人間にとっての基本です。上官の指示、命令を守ることは絶対ということになります。ところが、これには大きな問題が生じます。上官、上司の指示が確実に間違っている場合。または、その立場にあることがふさわしくない、人間として信用も尊敬もできない上司上官であるとき。警官や自衛官にとって自らの生死だけでなく、市井の人々の命や尊厳に関わる。

この小説の主人公である教官は、信用も尊敬もできる人のようです。杓子定規に規則を押し付けるのではなく、人としての警官がどうあるべきかを適切な方法で生徒たちを導いていると思わせます。そこがこの小説が読まれ、テレビドラマ化までされた要因でしょう。

評判が良かったので読みたいと思っていたら、Amazon Primeの読み放題の中にあったので上巻をKindleでポチりました。ところが、下巻は有料。うまいことしてやられた感じもしないでもないけど、リーズナブルな金額で堪能させていただきました。



それにしても、現在の政権と官僚たちの劣化はどうしたことか。
役人の書く文章に誤認や創作は厳禁。これは警察官だけでなく全ての公務員の基本です。
森友、加計、そして桜にしても、関わった現場の役人はきちんと記録を残しているはず。それを上司が廃棄したり改竄したり。それをやらせた者が出世したり。これでは規律も秩序も無きに等しい。しかも、出世させていると思わせる奴らは、国民に間違った規律と秩序を強制する憲法草案を作っていたりする。
政治家、官僚にはすべて警察学校同様のところで風間教官のような人の下に研修をうけてもらえれば、確実に日本は良くなると思うのだけど。違うかな。

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2020年1月23日 (木)

20004.虹列車・雛列車

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『虹列車・雛列車』 花村萬月

放浪の旅。憧れます。
必要最低限のものを背負って、目的地は特に決めず、思いついた場所へバスや列車に乗り、あとは徒歩。日が暮れたらそこで寝る。
自転車でもいいな。
移動のスピードが遅いほど、目に入るものが多くなような気がします。
匂いや音、空気の肌触りを感じられる。
簡単ではないです。
雨、風、暑さ、寒さ、虫、動物、人間も時には怖い。
若けりゃいいかもしれないけど、還暦の爺いの私がやると徘徊老人だと思われるかもしれない。
最近、車中泊というのが流行っているらしい。YouTubeで見るとなんか楽しそう。
でも、睡眠時無呼吸症の私にはちと難しいのです。

花村さんの短編集です。
花村さんにそそのかされた学生が東北に旅に出ます。特に目的地を決めず、基本野宿。しんどいことばかり。大変そうです。頑張れって応援したくなります。

沖縄でのお話は、花村さん自身が主人公。
小説だから随分と脚色されているとは思うけど、ほとんどが彼の体験談だと思います。
散歩するにしても、珍しい人に会うにしても、女性を買うにしても、楽しそうじゃない。ブツブツ不平不満を呟いたり、ちと悲しい気分になったり。でも、それを楽しんでいるようです。
なんか、素直じゃないというか、素直すぎるというか。
私には真似ができない。

沖縄にはまた行ってみたい。東北にも行きたい。
青森と秋田にいけば、全国都道府県全制覇なんです。
どんな旅をしようか考えるだけでも楽しくなります。

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2020年1月20日 (月)

20003.ただの眠りを

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『ただの眠りを』 オズボーン

何事も本当のことを知りたいと思う。立場が上の人が言ったことでも、それが違うと思えば調べる。客観的根拠を示して判断してもらう。それを疎ましく思う奴もいる。はっきりと「いらんことすんな」と言われることもある。
疑問に思ったことを追求するのは好奇心でしょうか。それって違うかもしれないって思う対象があって、本当のこと(真実ってのは大袈裟)を調べるというのは探究心ですか。
探究心により行き当たったことを事実とするのか。その判断を人に委ねなくてはならないこともある。それぞれの立場があるのだから。筋を通すってことでしょうか。
その結果が気に入らない時にどうすべきか…。
放っておけばいいじゃないか。とも、思う。
今や隠居の身。わざわざややこしい人間関係に身を投じることもない。
でもね…。

そんなことを考えさせられる日に買ったこの本。
72歳になったフィリップ・マーロウのお話です。
日々の暮らしには困らないだけのお金はあるらしい。身の回りの世話をしてくれる人もいる。妻ではない。結局一度も結婚しなかったようだ。
煩わしいこと一切なしのように思える。
なのに、仕事を受けてしまう。お金のためじゃない。社会の一員としての存在確認と好奇心からかな。そして探究心が湧く。
男としての本能も相変わらず。欲はあるようだが力はどうかな。
かくして深みに嵌っていくのです。昔のように。
齢を重ね、体力は衰えています。足が痛むので杖が手放せません。
若い頃ほど無防備ではなく、慎重になったかな。でも、無鉄砲かも。拳銃は携帯してません。身を守るのはこの杖のみ。
最後は筋を通します。

老マーロウの筋の通し方を存分に楽しませんてもらいました。

多用される難解なメタファーはチャンドラーの文体を引き継いでます。
チャンドラー好きにはたまらないかも。なんちゃってチャンドラーファンの私にも十分楽しめたけど、まだまだ突っ込みどころ満載のような気配に溢れていました。

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2020年1月13日 (月)

20002.沖縄を撃つ!

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『沖縄を撃つ!』 花村萬月

沖縄には8回ほど行っています。全てが「NAHAマラソン」参加のためです。那覇市内に泊まり、本島南部のコースを走るだけでした。ジャッキーステーキでステーキは食べましたが、ほとんど観光はしていません。マラソンコースにもなっている国際通りを歩いたのと、首里城くらいでしょうか。痛い足を引きずりながら行っておいて良かったです。
那覇以外では、普天間基地の見える丘の公園には行きました。そして、辺野古の海岸も。集落にある「イタリアンレストラン」という名の食堂のタコスは美味しかったです。
沖縄といえば、どうしても基地問題を考えてしまいます。
もともと、世界中の軍備がなくなればいいと思っているので、普天間は即返還、辺野古の海を埋め立てるなんてとんでもないことだと思っています。米軍基地が沖縄の経済に貢献しているとは思えません。軍隊には何の生産性もありません。社会を循環しない無駄使いです。普天間基地を俯瞰しながらそう実感しました。

花村さんが沖縄のことを書いた本です。拘りが強い爺さんのウダウダ話です。
半分くらいは、現地の売買春事情。というか、花村さんの体験談。
地元グルメも、観光客向けではないし、観光案内も立ち入り禁止のところだったり。
観光ガイドとしては役にたたない。一般の人にはね。

でも、私にとってはピッタリ。すぐにでも沖縄に行きたいと思ってしまいました。
花村さんの沖縄に対する思いに頷けるのです。なんとなくですけどね。花村さんと私とでは沖縄への浸かりかたが違いすぎるので、共感できるなんていうにはおこがましいですけど。

紀行文とか旅番組とかって、読む人観る人が体験できそうでできないってところが肝だと思います。この本に書かれている、花村さんが行ってみたらとお勧めのところに行くことはできるかもしれない。でも、同じ体験は無理。公園に行くことはできても、ホームレスと一緒に一週間も過ごすなんてできないっすよ。
売春事情についても、赤裸々すぎて。スポーツ紙のエロページみたいに良いことは書いてないし。悲惨な、文字通り悲しくなるようなお話ですから。松山や波乃上を足早に歩いたことはある。真栄原を冷やかすのはしてみたいけど、上がる勇気は私にはない。
コザの吉原には行きましたよ。マラソン完走できなかった翌日の早朝に。ひっそりとしてました。カラオケが聞こえる店が一軒あったかな。賑わう時間があるとは思えない街並みでしたが、確かめる意味でも夜にもう一度行ってみたいです。

この吉原の入り口にある、地元の人が行く食堂で食べた朝飯の中身汁は美味しかったです。何故か店を手伝いに来ていた近所のおばあとお話することになり、自家製のブレンド茶をいただきました。2リットルのペットボトルで。帰り便がその日の午後だったので、一生懸命飲ませていただきました。
ちょっと、沖縄に近ずけたかな、とは思ったけど、そこまでが限度かな。沖縄について語るなんてできません。
でも、まあいいか…。花村さんがこの本で語ってくれているから。

花村さんが沖縄行脚の集大成と仰る短編集『夢列車・花列車』をKindleでポチってしまいました。多分次は『ニードルズ』もかな。まんまと花村さんと出版社の策略に乗せられてしまったようです。

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2019年12月22日 (日)

19026.熊の皮

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『熊の皮』 マクラフリン

実家の近所に観音山という低い山があります。通っていた小学校からよく見えていました。校庭から先はずっと田んぼでしたから。今はすっかり開発され住宅地になってしまい見通せなくなってしまいました。麓まで自転車で行って、数十分で登れるから丁度良い散歩コースです。一瞬ですが、本格的登山の気分も味わえます。
観音山の隣は石割山。登山道は整備されています。地元の観光マップにも紹介されていますが、近年の台風被害と開発の失敗で、石割山から先は随分荒れています。
最近何度か登りました。夏の終わりに蛇と遭遇しました。イノシシも出没します。猿もいるようです。気持ち良く歩けるのですが、蛇は怖いです。イノシシに至近距離で出会ったらどうしようかと思います。猿に襲われたらなすすべがありません。自然に囲まれた暮らしは憧れですが、順応できる自信はありません。虫に刺されるも嫌だし。

『熊の皮』は、自然保護管理の仕事をするワケあり主人公ライスのお話です。
ある日ライスは胆嚢を摘出され、手を切り取られた熊の死骸を発見します。胆嚢と手は高値で売れるのです。密猟者をなんとかしたいのですが、地元民は非協力的です。麻薬を取引しているマフィヤやそれを取り締まる麻薬取締局も絡んできます。

アパラチア山脈の大自然の描写が見事です。じっくり読んでしまいます。自然の雄大さ、美しさ、澄んだ空気。憧れる部分だけでなく、蛇は怖いとか、いっぱい虫に刺されるとか、現実的なところもキチッと書き込まれています。気持ちよさと悪さ。まるでそこにいるような気分になります。
ライスはその自然に同化します。その一方で、ソーラーパネルとか撮影や防犯用のセンサーとか、現代的なガジェットも使いこなします。

人間や動物の描き方も素晴らしい。犬、猫、熊。素朴な地元民、ギャング、司法関係者。嫌な奴と愛すべき存在。
ミステリですから、残虐なシーンもあります。レイプ、殺人、暴力。最近歳をとったのか、残虐なシーンがリアルすぎると読むのが辛いのですが、この作品では大丈夫でした。自然の美しさと厳しさ、古さと新しさ、善と悪、信頼と裏切り、憎しみと愛情。全ての要素のバランスが良いのです。クライマックスと結末も私好みで、読了後はしばし心地よい時間を過ごせました。

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2019年11月27日 (水)

19024.『国境なき助産師が行く』 小島毬奈

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『国境なき助産師が行く』 小島毬奈

学生生活最後の年に、私の人生の恩人であるクラブの先輩がテニスショップを開店しました。私はそのショップの初代アルバイトです。テニス好きの人が多く集う店でした。卒業してからもちょくちょく店にお邪魔させていただき、いろいろな方と知り合うことができました。
その中の一人がK島さん。当時テニス雑誌にコラムを掲載されていたと記憶します。出版社にお勤めの編集者だったのですが、テニス関係の活動はボランティアだったようです。
「本職で不相応なギャラを貰っているので、その分を還元している」というようなことをおっしゃっていたのがずっと私の心に留まっていました。とにかく多趣味でバイタリティ溢れる方です。最近再開することができ、今年春には大阪、秋に福岡でご一緒させていただきました。
そのK島さんにいただいたのがこの本。著者は娘さんです。
ご本人は、

「なぜこんな娘に育ったのだろう。」

みたいなことをおっしゃっていますが、その行動力は親譲りじゃないかと思います。

著者は「国境なき医師団」で難民救助の活動に助産師として参加しています。パキスタンの病院、イラク、レバノンの難民キャンプ、地中海の難民救助船での活動について書かれています。難民たちの置かれている状況は悲惨です。十分な食料もなく、衛生状態は最悪。まともな教育も受けられない。多分私だったら1日、いや数時間も耐えられないかもしれないという現状。彼女は悩んだり、怒ったり、挫けたり、喜んだり、事実と思ったことをそのまま書いてます。今や死語かもしれませんが、看護婦さんが「白衣の天使」なんて綺麗事は一切ない現実です。書かれているほぼすべてからなんらかの刺激を受けるので要約は無理です。

上から目線でもなく、「べき論」を押し付けるでもなく自然体で書かれているように思えます。

世界を見ると「自由な行動をする権利」が誰でも持っているものではないとわかり「幸運」だったと、著者は記しています。私もこの日本で生まれ育った今までの人生を幸せだと思います。後悔や不満はあるけれど。
私たち個人が悲惨な難民の彼ら、彼女らを直接助けることは多分無理でしょう。酷い状況にある多くの人々存在することは知るべきことだと思います。でも、酷い人たちがいるから少々のことは我慢しろ、というのは違うと思います。まずは自分が幸せだと感じ、それを守り、できれば周囲の人に不幸せだと感じさせないという生き方をしたいと思います。今幸せな日本が後退してしまったら難民たちはもっと悲惨な状況になってしまいます。

この本に刺激を受けて、書きたいことがたくさんありすぎて支離滅裂になってしまいそうです。できればお多くの方に是非読んでいただきたいと思います。

 

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2019年11月 7日 (木)

19021.サイコセラピスト

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『サイコセラピスト』 マクジョージ

身近に精神科勤務経験のある看護師がいるので、精神科病棟での勤務の辛さは聞いています。暴力的な傾向を持つ患者さんへの対応は命がけで、患者さんに殺されてしまった看護師もいます。正常なコミュニケーションを取れないのが最大の問題。
彼女曰く、
「1対1だと人間としての対応をしようと思うけど、担当患者の数が多くなるとそれができなくなって辛い」
ほぼ投薬しかできることがなく、暴れたり、内臓疾患などの治療のための点滴針を抜かれたりすると拘束するのも本意じゃないけど仕方ない。
治療の効果を実感できることは少なく、達成感を感じることは稀のようです。

『サイコセラピスト』というタイトルは主人公の職業です。日本では「心理療法士」とか「臨床心理士」などにあたります。最近では「公認心理師」という国家資格があるそうです。看護師でも医師とも違うようで、私たちには分かりにくい仕事です。

6年前に夫の顔面に銃弾を撃ちこんだ画家。事件以後、彼女は全く口を開きません。主人公のセオは彼女とコミュニケーションをとりたいと考えます。そのためには彼女自身を知ることが必要だと周辺を調査をします。まるで警察や探偵のように。
タイトルからなんとなく、この作品はサイコスリラーっぽいのかと思ったのですが、完全に上質のミステリでした。その結末には完全にしてやられました。

殺人犯が精神疾患とされ罪を免れるというのは常に微妙な問題を孕みます。特に被害者の親族などはやるせない思いを持つことは間違いありません。
私は思います。犯罪者とされる多くの人は病気ではないかと。少なくともビョーキであると。罪を犯した罰に身柄を拘束するのではなく、身柄を拘束し病気を治療するという考え方であれば世の中少しは良くなるのではないか、などと考えたりするのです。

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2019年7月 3日 (水)

19015.『葬送の仕事師たち』


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『葬送の仕事師たち』
井上理津子

ここ数年の間に父、義父を見送りました。
父の葬儀では葬儀社の担当者がとても良いかたで、気持ち良く見送れました。

義父の葬儀では、残念なことに担当者の言動に妻がとても嫌な思いをしてしまいました。
棺の蓋を閉じる際、最後に担当者が長々とお別れを言ったのです。
最後に言葉をかけるのは、母親や自分たち娘であって欲しかった、赤の他人に白々しい言葉を長々とかけて欲しくなかったとの妻の思いです。
この担当者は事後の処理でもミスがあり、対処の仕方も酷くて、四十九日の法要では担当を外してもらいました。
その際、上司の方にお聞きしたのですが、その葬儀社では式の進行の細部は担当者の裁量に任せられているそうです。
喪主側の思いはそれぞれだと思うので、臨機応変な対応が必要です。義母や妻を含めた娘たちの思いを汲み取ってくれなかったのは残念だと思いつつ、難しくて大変な仕事だと感じました。

葬儀、法事には決まりごとがあります。娘が葬儀関係の仕事をしている身近にいる人に、なぜこうしないといけないの、と聞くと、昔からやっていることだからとの返答。
いや、つい最近まで土葬が多かったはず、火葬での儀式は昔からあったのではないと思う。
つい余計なことを言ってしまう私。

そんなこともあり、どこかの書評でこの本を知りKindleにダウンロードしていました。

登場する方は皆さん仕事に真摯に向き合っている方ばかりです。以前はボッタクリのひどい仕事してたとの懺悔もあります。人が嫌がることを仕事だし、いまだに差別的意識を持つ人も多いようです。
人間いつか死ぬし、死んじゃったら何もわからない。葬儀屋のコマーシャルじゃないけど、葬儀は残された人の為かもしれない。故人の思いを葬儀に込めて、残された人の良い思い出とする為の儀式だと。その為には生きている間の関係が大切なのだと思います。

難しいインタビューだったと思います。著者も気を使い、難しかったと書いているのですが、さらっとした気持ちで読み進めることができます。中盤以降で筆者が女性であることに気がつきました。『さいごの色街 飛田』の著者井上理津子さんでした。この方凄いです。

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2019年5月23日 (木)

19014. 『憲法についていま私が考えること』 日本ペンクラブ

『憲法についていま私が考えること』 日本ペンクラブ

 元号が「令和」になりました。その少し前に私は還暦を迎えました。
還暦について大きな感慨はありません。私にとって30歳の誕生日の方が衝撃的でした。自分が30歳を迎えられるとは思っていなかった、いや、30歳になる自分を想像できていなかったからだと思います。
歳をとるのは何となく嫌だったので30歳以降、私は歳を減らすことにしました。今年私は零歳になりました。
この30年間がちょうど「平成」に重なります。
だからといって、「平成」に何か思い入れがあるわけではありません。そして、自分が還暦になり元号が「令和」になっても、それが私に何か影響を及ぼすこともありません。「それがどうした」って感じです。

萬葉集に関連する学会を聴講したことがあります。取材の立会い。仕事でした。
発表の内容が理解できません。萬葉集に興味のない私には、枝葉末節、マニアックなお話をしているとしか感じられません。
中西進先生が同じ発表を聞かれていました。発表者に対して優しく講評されます。その鋭い突っ込みを聞いて、発表の内容がやっとわかった気がしました。優れた学者さんとはこういうことなんですね。
中西先生は、「令和」の考案者であるといわれています。ご本人は否定なさっていますが。
新元号には、その決定過程や発表後の首相談話に胡散臭さを感じていましたが、中西先生のコメントにより、許容できました。

前置きが長くなりましたが、『憲法についていま私が考えること』読了です。
中西先生は「令和」の意味について講演された中で、現代の宰相に平和憲法を尊重するよう求めたそうです。その記事中に、中西先生がこの本に寄稿しているとありました。ちょうど、憲法記念日。Kindleポチって読みました。

中西先生は、「象徴天皇は巨大な日本の良心であると心底思っている。」と、「無礼な言だが」と前置きし仰っています。僭越ながら私も同感です。そして、非礼を承知ながら申し上げると、「象徴天皇は日本人のゆとり」だとも思っています。そのゆとりを戴いていることが日本人の誇りであるとも。

象徴天皇について規定されているのが現在の日本国憲法です。
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条には戦争放棄、戦力の不保持・交戦権の否認が規定されています。
この条文があるからこそ、日本は戦後70年間諸外国と付き合うことができたのだと思います。
その憲法を変えようとする動きがあります。

この本のタイトルは『憲法についていま私が考えること』ですが、安倍首相を代表とする自民党を中心とした改憲派の方の寄稿は一切ありません。ほとんどが9条についてその理念を変えるべきではないと考えている方の文章です。どの文章も私にとっては賛同できるもの、理論的にも、感情的にも納得できるものばかりです。

憲法は、国民が可能な限り幸せに暮らすために最低限守るべきことが書かれているものだと私は理解しています。国を運営する立場の組織、人々に対する逸脱行為を禁止するというのは近代以降の立憲主義の共通原理であり常識であると吉岡忍さんは書いています。

私は現在の安倍首相を代表とする自民党の改憲案には一切賛成できません。
国を運営する立場にある人や組織が憲法を変えるべきだと言い出すのは立憲主義の否定だと思うのです。権力者が自分たちを縛るべきものを変えようとすることには胡散臭さしか感じられません。極論かもしれませんが、日本の総理大臣に改憲を言い出す権利はないと思っています。特に今の政権には国民の総意としての改憲という考え方があるとは思えないのです。

安倍首相にお願いです。もしあなたが日本の未来のため、国民全体の幸せのためには改憲が絶対に必要だと真剣に思い、それを使命だと思っているなら。総理大臣を辞めてください。一切の公職につかないでください。そして、憲法改正の内容と理念を明確にしてマニフェストのトップに掲げ、一議員として立候補してください。自民党議員皆さんも同様にお願いします。改憲を唱える人は入閣しないでください。そうして当選したら同じ意見を持つ国民の代表として、一議員の立場で改憲の発議をお願いします。
現在の日本国憲法は、成り立ちがどうであれ(私は間違っているとは思っていません)国民の総意として存在しますが、安倍さん、あなたが総理大臣であることは国民の総意ではありません。


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2019年5月20日 (月)

19019. 『闇夜の底で踊れ』 増島拓哉

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    『闇夜の底で踊れ』 増島拓哉

 

娘は今春大学に入学して、どのサークルに入るのか迷っています。
「司法試験研究会」には入会しました。法律の勉強はまだ始めたばかりで何を質問すればいいのか分からないので、本格的に参加できるのはまだ先になりそうです。

「グリークラブ」は雰囲気良かったけれど、入部の時期を逸してしまった。「グリー」は娘の通う大学随一の名門クラブ。男声合唱だけど最近女子部も出来たみたい。でも、娘は音痴なのでマネージャーになろうかと思っていたそうです。

「ディベート部」に入ると唯一の女子部員になってしまうし、部員少なくて廃部寸前。苦労しそうだし、サークルに入る最大の目的である友達作りが実現できない。この「ディベート部」は、私が勤めていた会社の後輩が創設者らしいです。世の中狭いです。

「ミステリ研究会」が最後の候補。これはモロ私の影響でしょうか。なかなか活動に出会えなくて、連休明けにやっとお試し参加。

で、増島拓哉さんです。この「ミス研」に所属しています。娘と同じ法学部の先輩。『闇夜の底で踊れ』は、「第31回小説すばる新人賞」受賞作です。
娘からの興奮した報告。彼女曰く、
「パパの好きなハードボイルド系で私の好みじゃなさそうだけど」
ということで早速購入。Kindleにダウンロード。一気読み。

主人公は30代半ばの元やくざ。パチンコ依存症のフリーター。ソープ嬢に入れ揚げた挙句再び暴力団とつきあうことになる。
救いようのない残酷なお話なのですが、登場人物の会話が絶妙に楽しく悲壮感なし。花村萬月さん(第2回小説すばる新人賞受賞)の『ブルース』などの初期作品と浅田次郎さんの『プリズンホテルシリーズ』を貪り読んだことを思い出しました。
このお二方は、それぞれ社会経験を積んでデビューしていますが、増島さんはまだ19歳。パチンコもソープもダメな筈ですが、それを感じさせない筆致、描写力。唸らされ、時折ジェラシーを感じながらの一気読みでした。

パチンコはネット動画を見て研究し書いたそうです。彼の才能は凄いと思いますが、花村さんや浅田さんのように人生経験に基づかず、バーチャルな経験だけで優れた小説を書くことができてしまう。えらい時代なったものです。才能さえあれば何でも書けてしまう時代とも言えるでしょうか。人生経験がないから、前出のお二人のような文章の深みが足りない、なんて思うのは爺の僻みですかね。作者のバックボーンを知らないで読んだら決して感じなかったと思うから。

とにかく、とても面白い私好みの作品で今後が楽しみな作家です。

さて、娘はミステリ研究会に入るのでしょうか。

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