2020年3月27日 (金)

20008.三体

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『三体』 劉慈欣

この作品が凄いという話は聞いていたけれど手を出せずにいました。ところが、早川書房が電子書籍のバーゲンセールをしていたので思わず購入。コロナウイルスの影響もありテニスも思うように出来ないのでこの機会に話題作を読んでしまおうと。
数学は苦手です。中学では得意だと思っていました。答えが明確に出てくるから好きだと。ところが高校の数学で挫折しました。定義とか定理とか公式とか訳判んないじゃないですか。要は世の中の現象に一定の法則を見つける。その法則を使って先を予測したり、新しいものを作ったりするんですね。
人間はその昔、自然現象はすべて神的なものとして畏れ慄いていたようです。それが段々と法則を発見し、今ではすべての事象を理解し制御できると思うようになりました。しかし当然すべての事象を理解し説明できる訳ではありません。


この『三体』です。

「題名の「三体」とは、作中でも説明されているとおり、天体力学の〝三体問題〟に由来する。三つの天体がたがいに万有引力を及ぼし合いながらどのように運動するかという問題で、一般的には解けないことが証明されている」

劉 慈欣. 三体 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.6738-6740). Kindle 版. 訳者あとがきから

簡単に言うと、「太陽が三つあったらその動きは予想することは不可能」ってことらしいです。突然氷河期になったり、灼熱の地獄になったりするってことみたいです。地球人の常識からいうと人間は生きていけません。でも、太陽が三つある星に文明を持つ生物(人間みたいな)がいて、その星と地球が交流を持つというのがこの物語の基本設定です。
私にはこの基本設定さえも理解不能です。

凄い小説です。基本的な数学さえも、ましては天体物理なんて全く理解できない私みたいな者が一気読みしてしまうほど面白いのです。
墨子とか孔子とか、ニュートンやアインシュタインとか登場します。名前は知っているけどその思想や理論なんてよくわかんない。語られる科学的なことは一片も理解できない。それでも面白いのです。
専門的知識を持つ方には突っ込みどころ満載のようで、それはそれで楽しめるのではないかと思うのですが。とにかく堪能しました。

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2020年3月25日 (水)

20007.探偵コナン・ドイル

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『探偵コナン・ドイル』 ハーパー

私はとても身体の弱い子供でした。月に一度は扁桃腺を腫らし学校を休んでいました。テレビは居間にしかないし、見せてはもらえないので本を読むしかありません。小学校3年生の頃だったでしょうか、児童用の世界文学全集みたいなもの30冊を完読。本棚の中の未読本は大人向けのハードカバー。小さな活字で2段組。意を決して読み始めたら止められない止まらない。これが私のシャーロック・ホームズとの出会いで、ミステリファンへの入り口となったのです。その後、小学校の図書室にあるホームズとルパンを貪り読みました。
こんな感じで本好き、ミステリ好きになった人は沢山いるのではないでしょうか。多くの言語に翻訳され、児童や生徒向けのものが数多く出版され、映画やテレビドラマ化され、今だに数多くのパスティーシュが生みだされているシャーロック・ホームズです。

『探偵コナン・ドイル』は、ちょっと変化球のホームズ・パスティーシュ。主人公はホームズの作者コナン・ドイルです。ワトスン役です。シャーロック・ホームズ役はドイルの師であるベル博士。彼は実在の人物で、ホームズのモデルとなった方です。そして、女性ジャーナリストのマーガレット・ハークネス。この3人で、あの有名な「切り裂きジャック」と対決します。
ドイルがホームズ・シリーズの第1作から次作まで4年の間があります。「切り裂きジャック」事件はその間に起こっています。作品はフィクションですが、「切り裂きジャック」事件についてはほぼ史実に基づいていて、実在の人物が登場しています。
「切り裂きジャック」というと元祖「猟奇連続殺人」です。時代は130年前。指紋採取もなかった時代です。ロンドンの人たちは恐怖に慄きました。(現在では「クリミナル・マインド」でFBIのBAUが毎週猟奇殺人を解決していますけどね。)
ホームズでなくドイルに事件を解決させるというアイデアは素晴らしい。リアリティのあるストーリーに独自の推理と解決。人物の描写も良くて私好みの作品。大いに堪能させていただきました。

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2020年3月18日 (水)

20006.『白い悪魔』

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『白い悪魔』 スタンズベリー

最近益々「欲望」を感じなくなったように思う。元々「欲」が強いほうではないと自分では認識しているけれど。
鈍感になったとか、気力が萎えたとかではない。
庭に咲く花を見て可憐だと思うし、沈丁花の香りを運ぶ風を心地よく感じられる。
美味いものを食べたいとは思うけど、わざわざ遠くまで出かけたり、店の前で並んだりしてまで食べたいとは思わない。
テニスはもっと上手くなりたいと思うし、試合に勝ちたいとも思うけれど、勝つことだけを目指そうとは思わない。
街を歩く女性を、綺麗だとか可愛いとか思う。それだけで満足。
欲しいものがないわけではない。でも、それを手に入れるためにしなければならないことと、手に入れた後に得られるメリットを考えると、別に欲しくないわ、と思ってしまう。
人と争ってまで我を通す気はない。
好きでもない人と付き合う必要のない生活。
もしかしたら、これが幸せで充実した生活なのかもしれない。

『白い悪魔』は美しい女性の独白の物語。彼女の周りには死が付き纏う。
淡々と語られるその内容は相当ギトギトしています。
欲望のぶつかり合い。そこまでして金が欲しいのか。立場を守りたいのか。
モノクロか紗がかかった映像で綴られたようなサスペンス映画を見ているような気分でした。
春の陽がポカポカ暖かかったベランダで読了。

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2020年1月27日 (月)

20005.教場

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『教場』 長岡弘樹


警察学校内では盗難が多いと聞いたことがあります。まさかとは思うけど、現役の警察官が笑いながらそう言っていました。
『教場』は、警察学校で起こる事件が描かれた短編連作です。
盗難どころではない様々な事件が起こります。校内でのいじめはあって当たり前のようだし。警察官も元は普通の人だから、それが40人も集まれば嫌な奴とか、信じられない奴とかいると思います。でも、このクラス問題多すぎ。小説ですから。これくらい事件が起きないと短編連作が成り立たない。全国の警察学校で起きた事件がこのクラスに凝縮されているって感じですか。
警察学校では、警官の職務について必要なことを学ぶだけでなく、不適格者を篩にかける役割を果たしています。この小説の中では、問題を起こした不適格者はすべて退校しています。

警察学校の生徒は毎日日記を書き提出しているそうです。これがとても厳しくて、事実しか書いてはいけない。誤認した記述があったら一晩中寮の廊下で正座。文章の中に実際にはなかったこと、つまり創作した内容を混ぜた場合には退校処分だそうです。
書類は正確無比が第一。事実どおりの文章を書けない人間は、警察には必要ないとの理屈です。社会の秩序を守ることを使命とする警察官には絶対に必要なことですね。
この連作の最後に、これは重要な要素となります。

「規律を守る」ことは、「秩序を守る」側の人間にとっての基本です。上官の指示、命令を守ることは絶対ということになります。ところが、これには大きな問題が生じます。上官、上司の指示が確実に間違っている場合。または、その立場にあることがふさわしくない、人間として信用も尊敬もできない上司上官であるとき。警官や自衛官にとって自らの生死だけでなく、市井の人々の命や尊厳に関わる。

この小説の主人公である教官は、信用も尊敬もできる人のようです。杓子定規に規則を押し付けるのではなく、人としての警官がどうあるべきかを適切な方法で生徒たちを導いていると思わせます。そこがこの小説が読まれ、テレビドラマ化までされた要因でしょう。

評判が良かったので読みたいと思っていたら、Amazon Primeの読み放題の中にあったので上巻をKindleでポチりました。ところが、下巻は有料。うまいことしてやられた感じもしないでもないけど、リーズナブルな金額で堪能させていただきました。



それにしても、現在の政権と官僚たちの劣化はどうしたことか。
役人の書く文章に誤認や創作は厳禁。これは警察官だけでなく全ての公務員の基本です。
森友、加計、そして桜にしても、関わった現場の役人はきちんと記録を残しているはず。それを上司が廃棄したり改竄したり。それをやらせた者が出世したり。これでは規律も秩序も無きに等しい。しかも、出世させていると思わせる奴らは、国民に間違った規律と秩序を強制する憲法草案を作っていたりする。
政治家、官僚にはすべて警察学校同様のところで風間教官のような人の下に研修をうけてもらえれば、確実に日本は良くなると思うのだけど。違うかな。

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2020年1月23日 (木)

20004.虹列車・雛列車

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『虹列車・雛列車』 花村萬月

放浪の旅。憧れます。
必要最低限のものを背負って、目的地は特に決めず、思いついた場所へバスや列車に乗り、あとは徒歩。日が暮れたらそこで寝る。
自転車でもいいな。
移動のスピードが遅いほど、目に入るものが多くなような気がします。
匂いや音、空気の肌触りを感じられる。
簡単ではないです。
雨、風、暑さ、寒さ、虫、動物、人間も時には怖い。
若けりゃいいかもしれないけど、還暦の爺いの私がやると徘徊老人だと思われるかもしれない。
最近、車中泊というのが流行っているらしい。YouTubeで見るとなんか楽しそう。
でも、睡眠時無呼吸症の私にはちと難しいのです。

花村さんの短編集です。
花村さんにそそのかされた学生が東北に旅に出ます。特に目的地を決めず、基本野宿。しんどいことばかり。大変そうです。頑張れって応援したくなります。

沖縄でのお話は、花村さん自身が主人公。
小説だから随分と脚色されているとは思うけど、ほとんどが彼の体験談だと思います。
散歩するにしても、珍しい人に会うにしても、女性を買うにしても、楽しそうじゃない。ブツブツ不平不満を呟いたり、ちと悲しい気分になったり。でも、それを楽しんでいるようです。
なんか、素直じゃないというか、素直すぎるというか。
私には真似ができない。

沖縄にはまた行ってみたい。東北にも行きたい。
青森と秋田にいけば、全国都道府県全制覇なんです。
どんな旅をしようか考えるだけでも楽しくなります。

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2020年1月20日 (月)

20003.ただの眠りを

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『ただの眠りを』 オズボーン

何事も本当のことを知りたいと思う。立場が上の人が言ったことでも、それが違うと思えば調べる。客観的根拠を示して判断してもらう。それを疎ましく思う奴もいる。はっきりと「いらんことすんな」と言われることもある。
疑問に思ったことを追求するのは好奇心でしょうか。それって違うかもしれないって思う対象があって、本当のこと(真実ってのは大袈裟)を調べるというのは探究心ですか。
探究心により行き当たったことを事実とするのか。その判断を人に委ねなくてはならないこともある。それぞれの立場があるのだから。筋を通すってことでしょうか。
その結果が気に入らない時にどうすべきか…。
放っておけばいいじゃないか。とも、思う。
今や隠居の身。わざわざややこしい人間関係に身を投じることもない。
でもね…。

そんなことを考えさせられる日に買ったこの本。
72歳になったフィリップ・マーロウのお話です。
日々の暮らしには困らないだけのお金はあるらしい。身の回りの世話をしてくれる人もいる。妻ではない。結局一度も結婚しなかったようだ。
煩わしいこと一切なしのように思える。
なのに、仕事を受けてしまう。お金のためじゃない。社会の一員としての存在確認と好奇心からかな。そして探究心が湧く。
男としての本能も相変わらず。欲はあるようだが力はどうかな。
かくして深みに嵌っていくのです。昔のように。
齢を重ね、体力は衰えています。足が痛むので杖が手放せません。
若い頃ほど無防備ではなく、慎重になったかな。でも、無鉄砲かも。拳銃は携帯してません。身を守るのはこの杖のみ。
最後は筋を通します。

老マーロウの筋の通し方を存分に楽しませんてもらいました。

多用される難解なメタファーはチャンドラーの文体を引き継いでます。
チャンドラー好きにはたまらないかも。なんちゃってチャンドラーファンの私にも十分楽しめたけど、まだまだ突っ込みどころ満載のような気配に溢れていました。

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2020年1月13日 (月)

20002.沖縄を撃つ!

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『沖縄を撃つ!』 花村萬月

沖縄には8回ほど行っています。全てが「NAHAマラソン」参加のためです。那覇市内に泊まり、本島南部のコースを走るだけでした。ジャッキーステーキでステーキは食べましたが、ほとんど観光はしていません。マラソンコースにもなっている国際通りを歩いたのと、首里城くらいでしょうか。痛い足を引きずりながら行っておいて良かったです。
那覇以外では、普天間基地の見える丘の公園には行きました。そして、辺野古の海岸も。集落にある「イタリアンレストラン」という名の食堂のタコスは美味しかったです。
沖縄といえば、どうしても基地問題を考えてしまいます。
もともと、世界中の軍備がなくなればいいと思っているので、普天間は即返還、辺野古の海を埋め立てるなんてとんでもないことだと思っています。米軍基地が沖縄の経済に貢献しているとは思えません。軍隊には何の生産性もありません。社会を循環しない無駄使いです。普天間基地を俯瞰しながらそう実感しました。

花村さんが沖縄のことを書いた本です。拘りが強い爺さんのウダウダ話です。
半分くらいは、現地の売買春事情。というか、花村さんの体験談。
地元グルメも、観光客向けではないし、観光案内も立ち入り禁止のところだったり。
観光ガイドとしては役にたたない。一般の人にはね。

でも、私にとってはピッタリ。すぐにでも沖縄に行きたいと思ってしまいました。
花村さんの沖縄に対する思いに頷けるのです。なんとなくですけどね。花村さんと私とでは沖縄への浸かりかたが違いすぎるので、共感できるなんていうにはおこがましいですけど。

紀行文とか旅番組とかって、読む人観る人が体験できそうでできないってところが肝だと思います。この本に書かれている、花村さんが行ってみたらとお勧めのところに行くことはできるかもしれない。でも、同じ体験は無理。公園に行くことはできても、ホームレスと一緒に一週間も過ごすなんてできないっすよ。
売春事情についても、赤裸々すぎて。スポーツ紙のエロページみたいに良いことは書いてないし。悲惨な、文字通り悲しくなるようなお話ですから。松山や波乃上を足早に歩いたことはある。真栄原を冷やかすのはしてみたいけど、上がる勇気は私にはない。
コザの吉原には行きましたよ。マラソン完走できなかった翌日の早朝に。ひっそりとしてました。カラオケが聞こえる店が一軒あったかな。賑わう時間があるとは思えない街並みでしたが、確かめる意味でも夜にもう一度行ってみたいです。

この吉原の入り口にある、地元の人が行く食堂で食べた朝飯の中身汁は美味しかったです。何故か店を手伝いに来ていた近所のおばあとお話することになり、自家製のブレンド茶をいただきました。2リットルのペットボトルで。帰り便がその日の午後だったので、一生懸命飲ませていただきました。
ちょっと、沖縄に近ずけたかな、とは思ったけど、そこまでが限度かな。沖縄について語るなんてできません。
でも、まあいいか…。花村さんがこの本で語ってくれているから。

花村さんが沖縄行脚の集大成と仰る短編集『夢列車・花列車』をKindleでポチってしまいました。多分次は『ニードルズ』もかな。まんまと花村さんと出版社の策略に乗せられてしまったようです。

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2019年12月22日 (日)

19026.熊の皮

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『熊の皮』 マクラフリン

実家の近所に観音山という低い山があります。通っていた小学校からよく見えていました。校庭から先はずっと田んぼでしたから。今はすっかり開発され住宅地になってしまい見通せなくなってしまいました。麓まで自転車で行って、数十分で登れるから丁度良い散歩コースです。一瞬ですが、本格的登山の気分も味わえます。
観音山の隣は石割山。登山道は整備されています。地元の観光マップにも紹介されていますが、近年の台風被害と開発の失敗で、石割山から先は随分荒れています。
最近何度か登りました。夏の終わりに蛇と遭遇しました。イノシシも出没します。猿もいるようです。気持ち良く歩けるのですが、蛇は怖いです。イノシシに至近距離で出会ったらどうしようかと思います。猿に襲われたらなすすべがありません。自然に囲まれた暮らしは憧れですが、順応できる自信はありません。虫に刺されるも嫌だし。

『熊の皮』は、自然保護管理の仕事をするワケあり主人公ライスのお話です。
ある日ライスは胆嚢を摘出され、手を切り取られた熊の死骸を発見します。胆嚢と手は高値で売れるのです。密猟者をなんとかしたいのですが、地元民は非協力的です。麻薬を取引しているマフィヤやそれを取り締まる麻薬取締局も絡んできます。

アパラチア山脈の大自然の描写が見事です。じっくり読んでしまいます。自然の雄大さ、美しさ、澄んだ空気。憧れる部分だけでなく、蛇は怖いとか、いっぱい虫に刺されるとか、現実的なところもキチッと書き込まれています。気持ちよさと悪さ。まるでそこにいるような気分になります。
ライスはその自然に同化します。その一方で、ソーラーパネルとか撮影や防犯用のセンサーとか、現代的なガジェットも使いこなします。

人間や動物の描き方も素晴らしい。犬、猫、熊。素朴な地元民、ギャング、司法関係者。嫌な奴と愛すべき存在。
ミステリですから、残虐なシーンもあります。レイプ、殺人、暴力。最近歳をとったのか、残虐なシーンがリアルすぎると読むのが辛いのですが、この作品では大丈夫でした。自然の美しさと厳しさ、古さと新しさ、善と悪、信頼と裏切り、憎しみと愛情。全ての要素のバランスが良いのです。クライマックスと結末も私好みで、読了後はしばし心地よい時間を過ごせました。

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2019年11月27日 (水)

19024.『国境なき助産師が行く』 小島毬奈

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『国境なき助産師が行く』 小島毬奈

学生生活最後の年に、私の人生の恩人であるクラブの先輩がテニスショップを開店しました。私はそのショップの初代アルバイトです。テニス好きの人が多く集う店でした。卒業してからもちょくちょく店にお邪魔させていただき、いろいろな方と知り合うことができました。
その中の一人がK島さん。当時テニス雑誌にコラムを掲載されていたと記憶します。出版社にお勤めの編集者だったのですが、テニス関係の活動はボランティアだったようです。
「本職で不相応なギャラを貰っているので、その分を還元している」というようなことをおっしゃっていたのがずっと私の心に留まっていました。とにかく多趣味でバイタリティ溢れる方です。最近再開することができ、今年春には大阪、秋に福岡でご一緒させていただきました。
そのK島さんにいただいたのがこの本。著者は娘さんです。
ご本人は、

「なぜこんな娘に育ったのだろう。」

みたいなことをおっしゃっていますが、その行動力は親譲りじゃないかと思います。

著者は「国境なき医師団」で難民救助の活動に助産師として参加しています。パキスタンの病院、イラク、レバノンの難民キャンプ、地中海の難民救助船での活動について書かれています。難民たちの置かれている状況は悲惨です。十分な食料もなく、衛生状態は最悪。まともな教育も受けられない。多分私だったら1日、いや数時間も耐えられないかもしれないという現状。彼女は悩んだり、怒ったり、挫けたり、喜んだり、事実と思ったことをそのまま書いてます。今や死語かもしれませんが、看護婦さんが「白衣の天使」なんて綺麗事は一切ない現実です。書かれているほぼすべてからなんらかの刺激を受けるので要約は無理です。

上から目線でもなく、「べき論」を押し付けるでもなく自然体で書かれているように思えます。

世界を見ると「自由な行動をする権利」が誰でも持っているものではないとわかり「幸運」だったと、著者は記しています。私もこの日本で生まれ育った今までの人生を幸せだと思います。後悔や不満はあるけれど。
私たち個人が悲惨な難民の彼ら、彼女らを直接助けることは多分無理でしょう。酷い状況にある多くの人々存在することは知るべきことだと思います。でも、酷い人たちがいるから少々のことは我慢しろ、というのは違うと思います。まずは自分が幸せだと感じ、それを守り、できれば周囲の人に不幸せだと感じさせないという生き方をしたいと思います。今幸せな日本が後退してしまったら難民たちはもっと悲惨な状況になってしまいます。

この本に刺激を受けて、書きたいことがたくさんありすぎて支離滅裂になってしまいそうです。できればお多くの方に是非読んでいただきたいと思います。

 

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2019年11月 7日 (木)

19021.サイコセラピスト

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『サイコセラピスト』 マクジョージ

身近に精神科勤務経験のある看護師がいるので、精神科病棟での勤務の辛さは聞いています。暴力的な傾向を持つ患者さんへの対応は命がけで、患者さんに殺されてしまった看護師もいます。正常なコミュニケーションを取れないのが最大の問題。
彼女曰く、
「1対1だと人間としての対応をしようと思うけど、担当患者の数が多くなるとそれができなくなって辛い」
ほぼ投薬しかできることがなく、暴れたり、内臓疾患などの治療のための点滴針を抜かれたりすると拘束するのも本意じゃないけど仕方ない。
治療の効果を実感できることは少なく、達成感を感じることは稀のようです。

『サイコセラピスト』というタイトルは主人公の職業です。日本では「心理療法士」とか「臨床心理士」などにあたります。最近では「公認心理師」という国家資格があるそうです。看護師でも医師とも違うようで、私たちには分かりにくい仕事です。

6年前に夫の顔面に銃弾を撃ちこんだ画家。事件以後、彼女は全く口を開きません。主人公のセオは彼女とコミュニケーションをとりたいと考えます。そのためには彼女自身を知ることが必要だと周辺を調査をします。まるで警察や探偵のように。
タイトルからなんとなく、この作品はサイコスリラーっぽいのかと思ったのですが、完全に上質のミステリでした。その結末には完全にしてやられました。

殺人犯が精神疾患とされ罪を免れるというのは常に微妙な問題を孕みます。特に被害者の親族などはやるせない思いを持つことは間違いありません。
私は思います。犯罪者とされる多くの人は病気ではないかと。少なくともビョーキであると。罪を犯した罰に身柄を拘束するのではなく、身柄を拘束し病気を治療するという考え方であれば世の中少しは良くなるのではないか、などと考えたりするのです。

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