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2016年6月23日 (木)

16016.深夜プラス1

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私が20代の頃、撮影した女優さんの髪型をクライアントが気に入らず、撮り直せと言い出しました。撮影現場にはクライアント担当者が立ち会っていたので、女優さんサイドは納得しません。プロダクションの担当役員に大阪から再撮影のお願いの電話をするも、取り次いでもらえません。どうしようもなく上京し、恵比寿にあるプロダクション前の公衆電話から電話したら、その日の夜に麹町のテレビ局のロビーで会ってもらえることになりました。結局、こちらの立場を理解していただき再撮影することになり、車でホテルまで送っていただきました。車中では困っていたキャスティングの件にも相談に乗っていただき、自動車電話で連絡をとり、MCの方を紹介していただきました。その後の仕事は苦労もありながら、20代の若造を信用していただいた皆さんのおかげでこなすことができました。
忘れられない車中となった車が、シトロエンでした。この宇宙船みたいな形で、ふわふわした乗り心地の自動車が、『深夜プラス1』では重要な役割で登場しています。
大戦を引きずる時代。それぞれの車が個性を主張していた中でも、シトロエンは特異な車でした。
『深夜プラス1』の原著は1965年の作品。菊池光さんによる邦訳は1967年の発行。文庫版は1976年に発刊されていて、今回読んだのは発行されたばかりの鈴木恵さんによる新訳です。
私は文庫版で学生時代に読み、再読もしました。冒険小説の名作だと思います。

今回、新訳での久々の再読となりました。読んだ端から忘れてしまうという私の読書なので、新旧の比較なんてできませんが、今回も堪能させていただきました。フランスからリヒテンシュタインまで人を運ぶ、というお話ですが、インターネットも携帯電話もない時代だからこそ成り立つストーリーです。
現代では何でもがユーザーフレンドリーになり過ぎている。道具に対するこだわりがなくても誰でも同じようなことができる。でも、これは同じようなことしかできないということ。物にこだわりを持ち工夫することでプロフェッショナルな仕事ができる。この作品では、車がシトロエンのDSである理由があるけど、今ではどんな車でも同じようもの。性能の差も無きに等しいし、形も似たり寄ったり。これでは物語の主役級にはなりえない。
N
システムとか、防犯カメラとかが溢れている現代よりも逃げやすいかもしれないけど、逃げる側の情報収集も難しい。結局は如何に信用できる友人がいるかどうかにかかっている。信用するか否かの基準は「正義」の有無。「正義」が「金」の力を上回ったときに「友情」が成り立つのかもしれません。
対して「愛情」は、お互いの弱さを愛おしく思い、それを補おうとする感情かもしれない。だから、「損得」を考えると「愛情」は成立しない。
初めて読んだ時にはこの作品は大人に憧れる私にとってのファッションだったかもしれません。二度目は楽しんで読めたのでしょう。そして、この歳になって再読し本当の良さをやっと判ったのかもしれません。大人になったってことかな。

作品の冒頭、フランス語であろう会話の部分を読んでいると本当にフランス語の会話が聞こえてきました。あまりの作品の素晴らしさに、私の頭がどうかしてしまったのかと思いましたが、目を上げると留学生らしい学生がフランス語で会話しながら目の前を通り過ぎて行くところでした。
プロット、キャラクター、会話、蘊蓄、こだわり。良質のミステリとしての条件はすべて満たされ、戦争の余韻のある時代に、大げさだけど人生について考えさせてくれる、間違いなく名作です。
内藤陳さんは、「読まずに死ねるか」って言ったけど、死ぬまでにまた読みたい物語です。

『深夜プラス1』〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV) 文庫 2016/4/22
ギャビン・ライアル (), 鈴木 (翻訳)

内容(「BOOK」データベースより)
腕利きドライバーのケインが受けた仕事は、ごくシンプルな依頼だった。大西洋岸からフランスとスイスを車で縦断し、一人の男をリヒテンシュタインまで送り届けるのだ。だが行く手には、男を追うフランス警察、そして謎の敵が放った名うてのガンマンたちが立ちはだかる。次々と迫る困難を切り抜けて、タイムリミットまでに目的地へ到着できるか?プロフェッショナルたちの意地と矜持を描いた名作冒険小説が最新訳で登場。

著者略歴 (BOOK著者紹介情報」より)
ライアル,ギャビン
1932
年英国バーミンガム生まれ。1951年から53年までは英国空軍に従軍。退役後、ケンブリッジ大学で英語学の学位を取得し、以後ジャーナリストとして活動した。1961年に『ちがった空』で作家デビュー。『もっとも危険なゲーム』(1963)、『深夜プラス1(1965)など冒険小説の傑作を次々と発表。1996年には英国推理作家協会の会長をつとめる。2003年死去

鈴木/
早稲田大学第一文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

文庫: 425ページ
出版社: 早川書房; 新訳版 (2016/4/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4150413835
ISBN-13: 978-4150413835
発売日: 2016/4/22
商品パッケージの寸法: 15.9 x 10.7 x 1.8 cm


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