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2016年5月27日 (金)

16014.夏に凍える舟

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『夏に凍える舟』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 新書 2016/3/9

ヨハン テオリン (), Johan Theorin (), 三角 和代 (翻訳)

田舎道をドライブすると、しみじみ日本はきれいな国だと思います。高速道路以外の道路も整備されていて走りやすく、景色を楽しみ季節を感じることができます。
都会でしかできない仕事(と思っていた)をし、必要なすべてを金で買って生活することしか知らなかった私には、田舎での生活を想像できませんでした。仕事を辞めることを決めた後に、田舎に暮らす友人を訪ね、その暮らしぶりを聞いて、人間は食べるものと住むところがあれば生活ができるという当たり前のことに気が付いた私は、益々田舎の風景が美しく見え、気持ちよく感じるようになりました。自然とうまく折り合いをつけられるように作られた景色は良いですね。

エーランド島シリーズもついに最終回。3月に出たこの本を読むために読んだ前3作。幸せな時間でした。すっかりエーランド島に嵌ってしまいました。
自然と折り合いをつけながらの島の暮らし。濃密な人間関係。自然と人間が作り出す伝説と事件。陰鬱で救いのない物語という部分もあるのですが、なにか田舎の友人を訪ねて話を聞いているような気持ちの良い時間を過ごせたような気がします。

エーランド島の夏は賑やかです。前作までとは違い現代的なサスペンス・ミステリの様相です。今回語られるサイドストーリーは前作までに語られた伝説的なものではなく、イデオロギーの対立という世界的な情勢に翻弄された残酷な人生。その人生と利益至上主義の現代経済の実践者が交わって織りなす物語です。
イェルロフ爺さん全編探偵役として大活躍。もう会えないかもしれないと思うと寂しい気もしますが、老体に鞭打ちこれだけ頑張ったのだからゆっくり過ごして欲しいと思います。

内容(「BOOK」データベースより)
エーランド島に美しい夏がやってきた。島でリゾートを経営する富裕なクロス一族の末っ子ヨーナスは、海辺で過ごす二年ぶりの夏に心躍らせていた。しかしある夜、ボートでひとり海にこぎだした彼の目の前に、幽霊船が現われる。やっとのことで陸に戻ったヨーナスは、元船長イェルロフのボートハウスの扉をたたく。少年から話を聞いたイェルロフは、不吉な予感を覚える…。一方その少し前、復讐を誓うある男が島に帰りついていた。記憶と思いを丹念に描き上げた、エーランド島四部作をしめくくる傑作ミステリ!

著者略歴 (BOOK著者紹介情報」より)
テオリン,ヨハン
1963
年スウェーデン、ヨーテボリ生まれの作家。2007年に『黄昏に眠る秋』でデビュー。長篇第二作『冬の灯台が語るとき』で「ガラスの鍵」賞など三冠に輝く

三角/和代
1965
年福岡県生、西南学院大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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2016年5月19日 (木)

16013.あなたが世界のためにできるたったひとつのこと

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『あなたが世界のためにできる たったひとつのこと―<効果的な利他主義>のすすめ』
単行本 2015/12/19
ピーター・シンガー (), 美和 (翻訳)

津田大介さんのメルマガの「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」のコーナーで速水健朗さんが紹介していました。大学の図書館に蔵書があったので読んでみることにしました。速水さんのレビューによると、著者のシンガーは「度を越した左翼」だそうです。レビューではシンガーの左翼論について速水さんがかなり詳しく紹介してくれています。私は、左右の定義なんてよくわかっていなかったのだけど、とくに最近は益々判らなくなっています。日本では「左翼」であろう共産党の主張が、とてもマトモのような気がします。「ヒダリ」は今や差別用語。「ヒダリ」に対する批判は論理的でなく根拠がなく偏っているものばかりです。そのへんのややこしいイデオロギー的対立、もしそんなものがまだ存在するとしたら、を理解する一助になるかもしれないと思ってこの本を読むことにしたのです。
ところが、目論見は外れてしまいました。
この本は「効果的利他主義」について書かれた本です。「利他主義」は、「利己主義」の反意語のようです。恥ずかしながら知りませんでした。自分のことしか考えない「利己主義」に対して、他人の為に何ができるのかを考え実行するのが「利他主義」。
自分のすべてを擲って世の為に尽くすのではなく、自身の幸せは確保しながら、余事を他人の為に提供するのが、「利他主義」のようです。提供するものが金銭であれば、それは「寄付」と呼ばれます。労働力、時間、であればボランティア活動でしょうか。臓器を提供することも考えられます。
宗教とか、特定の考え方や活動に囚われていることが前提にあるのではなく、純粋に他人の為に何ができるのかを考えるのだから、何をするのが他人のために「効果的」であるか、つまり効率が重要な要素になります。博愛主義とも違い、自分を犠牲にしてまでも他人の為に尽くすのではなく、自身の幸せを完全に確保した上に、他人の為に何ができるのかを考えます。
右翼的思想が、国家の為に自らを犠牲にしてまでも尽くすことだとすれば、個人の幸せが基本で、そのうえで他人の為に何ができるのかを考えるという利他主義は対極にあり、左翼的思想だと言えます。個人の力、主に資力で何ができるのかを効率的に考えるのは、配分の効率と公正さが最も重要になります。本来ならこの役目は政治が担うべきもの、いや、政治は公正な配分をするためにあるべきものです。そして、配分の公正さを測る尺度として貨幣システムがあるはずです。だとすれば、人間が幸せに生きるために必要なことの総量と、流通する貨幣の総量は同じになるべきで、予算、つまりお金がないから、福祉的事業ができないというのは、経済の本質として本末転倒であると思います。私は、為政者の最大の仕事は貨幣価値の適正化だと考えます。
話が脱線気味かもしれません。
この本は、「利他主義」の素晴らしさを説き、「利他主義」を絶対無二の思想として世に強制や洗脳するために書かれたものではないようです。当たり前の「倫理観」を持つ人にとって、個人が世の中の為にできることを考えるための参考書のひとつです。「押しつけ」や「あるべき論」は感じられませんでした。「利他主義」の正当性や必要性について「利他主義」の「教科書」は他に適切なものがあるかもしれません。
私には、沢山の寄付をするほどの余裕はありません。だから、どこに寄付をするのが効率的かを考える必要はないかもしれません。しかし、日頃のお金の使い方についてはよく考えたいと思っています。社会、他人の為に働いた対価として適正な額の金銭を貰い、私に提供される商品やサービスについては、それに関わった人に適当な配分がされるものにお金を使いたいのです。簡単に言うとブラック企業に金を払いたくないということかな。もう少し踏み込むと、フェアトレードの商品を買うとか。商品の対価が適正かどうかを日頃から考えることが、利他主義者としての第一歩ではないでしょうか。
少しでも寄付をする余裕のある人が読んでみるべき本ではないでしょうか。


内容紹介
シリコンバレーも注目する、
21
世紀の倫理的ライフスタイル

あの時、あなたはどこに寄付をしましたか? そのお金が何に使われたかご存知ですか? あなたのおかげで、何人の命が助かりましたか?──。世界をより良い方向に一歩進めようとする、シリコンバレーや欧米の若者たちに注目される「効果的な利他主義」を、その理論的支柱でありムーブメントを牽引する世界的な哲学者が平易に紹介する。理性と共感とテクノロジーを駆使して、効果的に「もっとも多くの命を救う」、21世紀の新しい生き方を始めるための一冊。

[
内容]
はじめに
Part1
効果的な利他主義のすすめ
1 効果的な利他主義とは?
2 ムーブメントが起きている
Part2
〈いちばんたくさんのいいこと〉をする
3 質素に暮らす
4 お金を稼いで世界を変える
5 そのほかの倫理的なキャリア
6 身体の一部を提供する
Part3
彼らを動かしているもの
7 愛がすべて?
8 理性の力
9 利他主義と幸福
Part4
チャリティを選ぶ
10 国内、それとも海外?
11 いちばん大きなインパクトを与える
12 比較が難しいもの
13 動物を救い、自然を守る
14 いちばん効果のあるチャリティ
15 人類の滅亡を防ぐ

単行本: 256ページ
出版社: NHK出版 (2015/12/19)
言語: 日本語
ISBN-10: 4140816929
ISBN-13: 978-4140816929
発売日: 2015/12/19
商品パッケージの寸法: 19 x 13.4 x 2.6 cm

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2016年5月15日 (日)

16012.赤く微笑む春

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『赤く微笑む春』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 単行本  2013/4/10
ヨハン・テオリン (), Johan Theorin (), 三角 和代 (翻訳)

エーランド島シリーズ第3弾。待ちに待った春。島は雪が融け湖となり、花が咲き始めます。心がウキウキとしてくる季節のはずですが、登場人物の皆さんはいろいろと問題を抱えていらっしゃるようで、明るく楽しい時間を過ごしているとは言えないようです。ただ、イェルロフ爺さんは暖かくなって身体の調子が少しは良いのか、老人施設を出て一人暮らしに戻ります。
前作までと同じく、過去と現在が複数の視点で展開します。今回は島での生活と濃密な人間関係が描かれています。伝承や伝説というのは信じた人がいたから語り継がれ、何らかの幸せをもたらせてくれたから今に残っているのだと思います。そんな伝説を信じた少女の生活が語られます。
前作までとちょっと違うのは、現代ミステリらしい要素が強くなったこと。世相を映した派手な事件でスリリングな展開。イェルロフ爺さんは主役ではないけれど、見事な観察力で事件解決の糸口を掴み、的確な状況判断で重要な役割を果たします。
家族の困難に立ち向かう主人公ペールの現実と、大きな年の差がありながらほのかな友情を感じさせるイェルロフ爺さんとの関係。島の伝説。事件とこれらの物語のバランスが見事。三作目も気が付けば終盤、そして一気読みと、大いに堪能させていただきました。
大学の図書館には蔵書がなかったので、市の図書館で借りました。この本のおかげでどこにも出掛けなかったGWも楽しく過ごすことができました。

内容(「BOOK」データベースより)
エーランド島の石切場のそばのコテージに暮らしはじめたペール・メルネル。ある日彼のもとに、疎遠にしていた派手で傲慢な父ジェリーから、迎えに来るよう求める電話が入る。渋々父の別荘に赴くと、そこに待っていたのは謎の刺し傷を負った父だった。そして直後に別荘は全焼する。なぜこんな事件が起きたのか?娘の病気などの悩みを抱えながらも、ペールは父の暗い過去を探りはじめる―。エルフとトロールの伝説が息づく島で、人々の切ない記憶と過去が交錯する。北欧の注目作家が贈る深い余韻が残るミステリ。

単行本: 464ページ
出版社: 早川書房 (2013/4/10)
言語: 日本語
ISBN-10: 4150018707
ISBN-13: 978-4150018702
発売日: 2013/4/10
商品パッケージの寸法: 18.4 x 10.6 x 2.6 cm

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2016年5月 4日 (水)

16011.冬の灯台が語るとき

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『冬の灯台が語るとき』 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 単行本 2012/2/9 

ヨハン テオリン (), 三角 和代 (翻訳)

テオリンのエーランド島4部作2作目。舞台は冬。大学図書館で借りました。前作に引き続き、島の伝承と人間関係、自然が描かれています。
主人公は冬の厳しさのようです。気候が良い都会に暮らす私が、北の国の冬の嵐の厳しさを想像するのは難しいけれど、充分に感じさせてもらいました。最近、都会派ミステリよりも田舎を描いた作品が楽しく読めます。どこか憧れのある田舎暮らし。でも厳しい気候や不自由な暮らしにはすぐに逃げ出したくなるに違いありません。命に係る厳しい自然の中で暮らすと、自然の美しさを感じること、そんな自然からもたらされる生きる糧を得ることが人間本来の喜びだということを思い起こさせてくれます。実際に体験できそうでできないことを安全な場所にいながら想像するのは楽しいです。

舞台はウナギ岬の灯台。灯台守たちが暮らしてきた屋敷に若い夫婦が住みはじめます。この灯台をめぐる過去の物語。多くは厳しい自然との闘いによる不幸と、若い一家を襲う不幸が並行して語られます。
探偵役のイェルロフ爺さんは、今回出番は少ないものの重要な役割を果たします。前作同様に、事件の解決よりも島の自然に浸りながら読み進むと、いつの間にか終盤。残るページでどうやって話を収めるのだろうと思うも、見事なエンディング。このシリーズの性格が確定した作品でした。前作も良かったけど、さらに堪能させてもらいました。

内容(「BOOK」データベースより)

エーランド島に移住し、双子の灯台を望む屋敷に住みはじめたヨアキムとその家族。しかし間もなく、一家に不幸が訪れる。悲嘆に沈む彼に、屋敷に起きる異変が追い打ちをかける。無人の部屋で聞こえるささやき。子供が呼びかける影。何者かの気配がする納屋…そして死者が現世に戻ってくると言われるクリスマス、猛吹雪で孤立した屋敷を歓迎されざる客たちが訪れる―。スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞、「ガラスの鍵」賞の三冠に輝く傑作ミステリ。

著者略歴 (BOOK著者紹介情報」より)
テオリン,ヨハン
1963
年スウェーデン、ヨーテボリ生まれのジャーナリスト、作家。2007年のデビュー作『黄昏に眠る秋』(ハヤカワ。ミステリ)はスウェーデン推理作家アカデミー賞、英国推理作家協会賞を受賞し、世界20カ国以上で刊行された。『冬の灯台が語るとき』でも「ガラスの鍵」賞等を受賞

三角/和代
1965
年福岡県生、西南学院大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報
単行本: 462ページ
出版社: 早川書房 (2012/2/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4150018561
ISBN-13: 978-4150018566
発売日: 2012/2/9
商品パッケージの寸法: 18.2 x 11.4 x 2.6 cm

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2016年5月 3日 (火)

16010.黄昏に眠る秋

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『黄昏に眠る秋』 Kindle版–

ヨハン テオリン (), 三角 和代 (翻訳)

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月発行のポケミスはテオリンの『夏に凍える舟』。エーランド島シリーズ4作目完結編ということで、1冊目から読もうと思いKindle版で。
テオリンはスウェーデンの作家、エーランド島はスウェーデン本土に寄り添うように位置するバルト海にある細長い島。現在は本土とは橋で繋がっています。このシリーズは、この島の歴史と現在を繋ぐ物語です。
霧に包まれたエーランド島で、幼い少年が行方不明になったのは二十数年前。この事件がストーリーの中心なのですが、物語はそれ以前から語られます。どうやらこの作品の本筋は、この島の自然とそこに暮らす濃密な人間関係を持つ住民たちの物語。ミステリの形を持つ洗練された民話とも言えます。
物語は過去と現代を行きつ戻りつしながら、事件の進捗も気にしつつ、エーランド島の自然と暮らしに浸っているうちに、気が付けば終盤に差し掛かっていました。
探偵役は元船長の老人。事件解決の為に積極的に動き回る体力はありません。田舎なので車以外の移動も不自由です。優れた洞察力と人間関係により事件の真相に迫ります。終盤の盛り上がりはお見事。もっと読みたいと思いつつ、心地よい読後感をいただきました。

内容(「BOOK」データベースより)

霧に包まれたエーランド島で、幼い少年が行方不明になった。それから二十数年後の秋、少年が事件当時に履いていた靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに突然送られてくる。イェルロフは、自責の念を抱いて生きてきた次女で少年の母のユリアとともに、ふたたび孫を探しはじめる。長年の悲しみに正面から向き合おうと決めた二人を待つ真実とは?スウェーデン推理作家アカデミー賞、英国推理作家協会賞受賞の傑作ミステリ。

著者略歴 (BOOK著者紹介情報」より)

テオリン,ヨハン

1963年にスウェーデン、ヨーテボリに生まれる。ジャーナリストとして活動するかたわら、2007年に「エーランド島四部作」第一巻となる『黄昏に眠る秋』で長篇デビュー。同書でスウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞および英国推理作家協会(CWA)賞最優秀新人賞を受賞。2008年に発表した同第二巻となる長篇第二作『冬の灯台が語るとき』(以上早川書房刊)で、スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長篇賞、CWA賞インターナショナル・ダガー賞、「ガラスの鍵」賞の三冠に輝く

 

三角/和代

1965年福岡県生、西南学院大学文学部卒、英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

登録情報
フォーマット: Kindle
ファイルサイズ: 657 KB
紙の本の長さ: 396 ページ
出版社: 早川書房 (2013/3/10)
販売: Amazon Services International, Inc.
言語: 日本語
ASIN: B00CL67PEK







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