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2016年5月19日 (木)

16013.あなたが世界のためにできるたったひとつのこと

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『あなたが世界のためにできる たったひとつのこと―<効果的な利他主義>のすすめ』
単行本 2015/12/19
ピーター・シンガー (), 美和 (翻訳)

津田大介さんのメルマガの「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」のコーナーで速水健朗さんが紹介していました。大学の図書館に蔵書があったので読んでみることにしました。速水さんのレビューによると、著者のシンガーは「度を越した左翼」だそうです。レビューではシンガーの左翼論について速水さんがかなり詳しく紹介してくれています。私は、左右の定義なんてよくわかっていなかったのだけど、とくに最近は益々判らなくなっています。日本では「左翼」であろう共産党の主張が、とてもマトモのような気がします。「ヒダリ」は今や差別用語。「ヒダリ」に対する批判は論理的でなく根拠がなく偏っているものばかりです。そのへんのややこしいイデオロギー的対立、もしそんなものがまだ存在するとしたら、を理解する一助になるかもしれないと思ってこの本を読むことにしたのです。
ところが、目論見は外れてしまいました。
この本は「効果的利他主義」について書かれた本です。「利他主義」は、「利己主義」の反意語のようです。恥ずかしながら知りませんでした。自分のことしか考えない「利己主義」に対して、他人の為に何ができるのかを考え実行するのが「利他主義」。
自分のすべてを擲って世の為に尽くすのではなく、自身の幸せは確保しながら、余事を他人の為に提供するのが、「利他主義」のようです。提供するものが金銭であれば、それは「寄付」と呼ばれます。労働力、時間、であればボランティア活動でしょうか。臓器を提供することも考えられます。
宗教とか、特定の考え方や活動に囚われていることが前提にあるのではなく、純粋に他人の為に何ができるのかを考えるのだから、何をするのが他人のために「効果的」であるか、つまり効率が重要な要素になります。博愛主義とも違い、自分を犠牲にしてまでも他人の為に尽くすのではなく、自身の幸せを完全に確保した上に、他人の為に何ができるのかを考えます。
右翼的思想が、国家の為に自らを犠牲にしてまでも尽くすことだとすれば、個人の幸せが基本で、そのうえで他人の為に何ができるのかを考えるという利他主義は対極にあり、左翼的思想だと言えます。個人の力、主に資力で何ができるのかを効率的に考えるのは、配分の効率と公正さが最も重要になります。本来ならこの役目は政治が担うべきもの、いや、政治は公正な配分をするためにあるべきものです。そして、配分の公正さを測る尺度として貨幣システムがあるはずです。だとすれば、人間が幸せに生きるために必要なことの総量と、流通する貨幣の総量は同じになるべきで、予算、つまりお金がないから、福祉的事業ができないというのは、経済の本質として本末転倒であると思います。私は、為政者の最大の仕事は貨幣価値の適正化だと考えます。
話が脱線気味かもしれません。
この本は、「利他主義」の素晴らしさを説き、「利他主義」を絶対無二の思想として世に強制や洗脳するために書かれたものではないようです。当たり前の「倫理観」を持つ人にとって、個人が世の中の為にできることを考えるための参考書のひとつです。「押しつけ」や「あるべき論」は感じられませんでした。「利他主義」の正当性や必要性について「利他主義」の「教科書」は他に適切なものがあるかもしれません。
私には、沢山の寄付をするほどの余裕はありません。だから、どこに寄付をするのが効率的かを考える必要はないかもしれません。しかし、日頃のお金の使い方についてはよく考えたいと思っています。社会、他人の為に働いた対価として適正な額の金銭を貰い、私に提供される商品やサービスについては、それに関わった人に適当な配分がされるものにお金を使いたいのです。簡単に言うとブラック企業に金を払いたくないということかな。もう少し踏み込むと、フェアトレードの商品を買うとか。商品の対価が適正かどうかを日頃から考えることが、利他主義者としての第一歩ではないでしょうか。
少しでも寄付をする余裕のある人が読んでみるべき本ではないでしょうか。


内容紹介
シリコンバレーも注目する、
21
世紀の倫理的ライフスタイル

あの時、あなたはどこに寄付をしましたか? そのお金が何に使われたかご存知ですか? あなたのおかげで、何人の命が助かりましたか?──。世界をより良い方向に一歩進めようとする、シリコンバレーや欧米の若者たちに注目される「効果的な利他主義」を、その理論的支柱でありムーブメントを牽引する世界的な哲学者が平易に紹介する。理性と共感とテクノロジーを駆使して、効果的に「もっとも多くの命を救う」、21世紀の新しい生き方を始めるための一冊。

[
内容]
はじめに
Part1
効果的な利他主義のすすめ
1 効果的な利他主義とは?
2 ムーブメントが起きている
Part2
〈いちばんたくさんのいいこと〉をする
3 質素に暮らす
4 お金を稼いで世界を変える
5 そのほかの倫理的なキャリア
6 身体の一部を提供する
Part3
彼らを動かしているもの
7 愛がすべて?
8 理性の力
9 利他主義と幸福
Part4
チャリティを選ぶ
10 国内、それとも海外?
11 いちばん大きなインパクトを与える
12 比較が難しいもの
13 動物を救い、自然を守る
14 いちばん効果のあるチャリティ
15 人類の滅亡を防ぐ

単行本: 256ページ
出版社: NHK出版 (2015/12/19)
言語: 日本語
ISBN-10: 4140816929
ISBN-13: 978-4140816929
発売日: 2015/12/19
商品パッケージの寸法: 19 x 13.4 x 2.6 cm

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