M08002.母べえ
映画が始まってすぐにいたたまれない気持ちになり、そのまま席に座り続けるのが辛くなりました。涙を堪えるのに必死でした。
第2次世界大戦直前から戦中、お互いを「父べえ」「母べえ」「初べえ」「照べえ」と呼び合う仲睦まじい家族の物語。野上佳代(吉永小百合)はドイツ文学者の夫・茂を治安維持法違反で検挙拘束されながらも、二人の娘と共にしっかりと暮らします。
過剰な演出は一切ありません。戦争の悲惨さ理不尽さが身体の中に沁みこんでくるような気がします。見終わった後、皆に見て欲しいと思いました。
山田洋次監督。抑えの利いた演出。他の作品では物足りないと思うこともあるのですが、今回は見事です。この内容を伝えるにはこの演出しかないだろうと思います。
吉永小百合さん。「サユリスト」世代ではない私にとっても、真の大女優と思わせてくれました。演技を見てしまった今、「母べえ」を演じられる他の女優さんを全くイメージできません。
浅野忠信さん。深刻な雰囲気をまじめなコミカルさで和らげる素晴らしい演技でした。浅野忠信ってしばらく気が付きませんでした。彼の新境地かも。
鶴瓶。デリカシーのない叔父さん役。愛されるべき人物が心に残ります。
他、檀れいさん、二人の子役。山田監督と原作者の野上照代さんの思いが確実に出演者に伝わった結果、この家族の心に沁みる描写となっているのでしょう。
私はお涙頂戴の映画は嫌いです。映画はお金を払って楽しい時間を過ごすものだと思っています。エンタテインメント映画以外はあまり観ないことにしています。でも、この映画は皆に観て欲しい。
時代考証の緻密さやセットの出来の良さも含めて、粗製濫造だとも思われる邦画の今後の指標になるべき映画だと思います。昨年の「武士の一分」とともに。
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